クレイマー的軽薄見聞録vol.4:反戦・反原発ジジイ編「残酷な写真は子どもに見せないほうがいいのか?『 被爆70年 東京原爆展 〜つたえ広げようナガサキ・ヒロシマ〜』を見て」
入り口に平山郁夫(故)の描いた大作「広島生変図」があった。
さすがの存在感だが、インパクトが強いのは被爆直後の広島・長崎のモノクローム写真パネルだ。一発の原子爆弾で一瞬のうちに焼失した長崎、広島の町並み。焦土にぽつんと見える“原爆ドーム”の骨組。
「誰か、助けて……ミズ、ミズ、ミズ……」
自分の身に何が起こったのかさえわからないまま、瓦礫の陰でもがく皮膚の焼け爛れた老若男女、そしてまだ幼い子どもたち。目を背けたくなる写真が続く。
だけど、目を背けてはいけない。焼き殺された人々の苦しみを忘れないために。生き残ったけれど、まったくいわれのない差別まで受けた被爆者の存在を忘れないために。
忘れていいものと、忘れてはいけないものがある。
昨今の日本には嫌なことが絶え間なく起きている。人は嫌なことや都合の悪いことを忘れる能力を授けられているから、生きていける。
しかし、忘れてはいけないものもある。
戦争と核の惨禍だ。
ここで飾られていた写真は、日本原水爆被害者団体協議会がNYの国連本部で展示(2015年4~5月)したのと同じものだ。国連展では世界各国の国連大使、職員、NY市民が訪れて連日盛況だったそうだが、東京原爆展の豊島区新庁舎内の会場はガラガラ。主催者に聞くと、初日午前中で80人だったそうだ。
そのぶん、ゆっくり見られた。そして、いろいろなことを思った。そうちの3つだけ、メモっておきます。
【その1】誰が何のために、被爆者の写真展示に抗議したのか?
「子どもには見せない方がいい写真も、展示されています」
という意味の注意書きが会場にあった。それは主催団体に、
「こんなに残酷な写真を子どもに見せるのは、いかがなものか?」
などの抗議があったことを物語っている。
広島・長崎への原爆投下の悲惨さは、歴史上類のない「地獄」だった。
地獄を写した写真は、残酷なのが当たり前。被爆者がその残酷な写真を何のために展示しているのか?
自分の体験した残酷な実態を次世代に伝え、もう2度と戦争を繰り返さないで、という願いを込めてのことだ。
子どもたちに安倍晋三のそらぞらしい平和演説を100回聞かせるよりも、原爆展の写真1枚を見せたほうがいいのは、痴呆になりかかった私でもわかる。
大人がどんなに隠しても、子どもはエロや暴力の図書・映像を見る。スマホでゲームにはまり、性的な誘惑にも染まる。予備知識が予防接種になるのだろう。見たからって性犯罪や暴力事件は起こさなかった。
これ、「経験者は語る」だから、間違いない。
「被爆写真は残酷ですから、子どもに見せないで」と、シタリ顔で抗議した人は、何者なのか? 偽善者の教育評論家か? 熱烈な愛国者に成りすました、原爆・戦争大好き売国奴か?
【その2】原発は人間に何をもたらすのか?
アメリカ、英仏、ロシア、中国、インド、パキスタン、北朝鮮……原水爆開発と実験は後を絶たない。
それ以上に拡散し続けているのは原子力発電所だ。会場の後半に「核の平和利用のかげで」のコーナーがあった。
ロシアのチェルノブリ、米国のスリーマイル、そして福島。
いま私たちは、原発の惨禍に見舞われている。
安部が五輪招致で行った世紀の名演説「福島原発事故は制御下にある(アンダーコントロールUnder Control)」は、世界に向けた大嘘。今日も高濃度の放射能汚染水を垂れ流し続けている。
私は思った。
原爆展は、「原爆は人間に何をもたらしたか?」と私たちに問いかける。
そして、その問いかけは、
「原発は人間に何をもたらすのか?」
という不気味な疑問にもつながる、ということを。
【その3】「パリのテロ」に便乗する自民・公明政権
彼らは、ほんとうに国民の安全と幸せを考えているのか?
地獄の辛酸を舐めた被爆者は、
「国民の幸せのために。平和のために」
という戦前の為政者の虚言を信じ、盲従した市民たちだった。
昨今、パリのテロを受けて自民・公明政権の議員たちが、
「日本国民の安全と平和は、秘密保護法だけじゃ護れない。さあ、共謀罪成立だ!」
とはしゃぎ始めた。
いま原爆展を見るべきなのは為政者なのだけど、来るわけないか。
帰りがけに受付で来場者の記帳簿をめくると、高野豊島区長、三田教育委員長の署名があった。聞けば、午前10時の開場と同時に来場したという。
反戦・反核運動への締め付けが加速する世相のなかで、この原爆展を主催・後援した豊島区の勇気を、豊島区民は誇りに思っていい。
場内撮影禁止の注意!
多くのメディアが被爆当時の貴重な写真を粗雑に乱用したこともあり、会場展示写真の撮影は禁止。
被爆当時の写真を撮影者の承認なしに使うと、著作権法違反で多額な罰金が科せられると聞いている。しかし、この写真はスマホで拡散させてでも、今度の参議院選挙から選挙権を得る多くの若い人たちに見せてほしいと思う。
簡単にはいかないだろうけれど、もし被爆者(縁故者)のプライバシーと著作権所持者の同意が得られるなら、広島・長崎の被爆写真をプリントしたTシャツを売れば、世界中に拡散できるかもしれない。
By老人21面相:反戦・反原発ジジイ編
*同展は去る、2015年11月23日~28日、豊島区新庁舎1Fセンタースクエアで開催されました。
⇒原爆展の模様は、「池袋テレビ」←検索で、いつでも、無料で見られる。