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vol.21「登山ハイキング観光にも、不景気の余波」

 知り合いの山仲間が、群馬の谷川岳山行を計画したのはひと月前。6月下旬に、天神平まで谷川岳ロープウェイを利用して登山しようと。歩けば3時間かかる道のりを、ロープウェイなら10分。誰もが知っているこの馴染みのロープウェイは1960年に設置され55年もの歴史がある。

 ところが間際になって知ったのは、「定期点検」のために6月はひと月間も運休しているということだった。「前はそんなことなかったよなあ」と、ガッカリ。目的地の変更せざるを得なくなった。「定期点検」とは何なんだ。

 世相は不景気である。いくら株価が高騰したといっても、「奥さんの財布の中身」を拝見すれば、不景気は想像以上。もちろん梅雨時期の谷川岳でも観光客は少なく「どうせ客が来ないなら」と、営業を止めてしまったというのが、第一の説。

 6月は雪解けと夏山山開きの前で、登山には適さない。いやむしろ天候不順で登山には危険だ。そのうえ山岳遭難件数は、この50年で最悪だという。ならば登山させないように「ロープウェイの営業は自粛せよ」と国交省あたりから通達が出たとも推測するのが第二説。

 それでなくとも日本索道工業会なる組織は、冬のスキーリフトと夏の観光リフトはシーズンごとに架線を掛け替えるように業者に指導して、ほとんど嫌がらせのような規制を掛けている。その作業もまた定期点検と称する。リフトとは地面から数メートル上部を動くよう指導しているとして、雪が解けると地面が3m下がるわけで、だからリフトの架線も3m低く掛け替えろということなのだ。

 設置後50年も経過するあの時代に作られたロープウェイ観光に、「もう魅力はなくなった」というのが第三説。

 当時、自然破壊はものともせずに、箱根ロープウェイ(神奈川県)を筆頭に、新穂高ロープウェイ(北アルプス)、駒ケ岳ロープウェイ(中央アルプス)、蔵王ロープウェイ(山形県)など、ちょっと有名な山に片っ端から造った。安易な観光誘致である。たったそれだけのことを50年も続けてればいずれ飽きられる。いやよくぞ50年も続いてきたものだ。環境庁が設置され自然破壊にブレーキがかかったのは1970年代になってから。滑り込みセーフした既得権益だけの「殿様商売」なのだから、さほどの魅力はないと批判もある。

 総じていえばすべてが「不景気」のなせる技なのかと、気分は暗くなる。首都圏のJRの定期点検といえば、毎日深夜の数時間。新幹線の保守点検も同じこと。需要があれば何でもできるのに、点検や架線の掛け替えでひと月間も休んでいる老舗のロープウェイをみると、需要減なのに危機感もないようすに、滑稽さが響く。(sp)

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