53万人が訪れた濃密すぎるオタクの祭典『コミックマーケット』の日本一暑い夏
さる8月12日と14日。企画のネタでも転がってないかと、10年ぶりにコミケに行ってみた。
3万5000もの参加サークルと、50万人もの来場者を誇るこの年2回のイベント。特に夏に行なわれる通称「夏コミ」は、大量の人と夏の暑さ、そしてオタク特有の熱気で凄まじい灼熱地獄となる。
40年目にして90回目のコミックマーケット。3日間の日程初日となる12日、午前10時を過ぎたあたりに会場の東京ビックサイトに着くと、広大なこの展示場の敷地をぐるーーっと迂回させられる。トラックが何百台も駐められそうなスペースだ。じりじり照りつける夏の太陽。
「体調大丈夫ですか。水分補給行なってください。動くときは日傘閉じてくださーい!」とスタッフの怒号が響く。
やっと会場が近づくと、
「長旅お疲れ様でした。目の前のカーブがお待ちかねの館内です。こんなところで転んだら※△♨︎★〒□♯♂…」
何か面白いことを言っていたような気がするが暑さで頭がボーッとして忘れてしまった。
「芋の子を洗うよう」とはまさにこのことで、場内はあまりの人の波に人外魔境のような有様だ。ここに入るまでに行列があったのに、展示エリア外周の人気サークルは、さらに会場の外に長大な列を作っている。延々と並ぶ机は人気マンガ・アニメ・ゲームのパロディが中心だが、3日間のうち、なかにはアクセサリーや自作のコスプレ写真集などさまざまなものを売る人もいて、なんでもアリなのである。
商業ベースではなく、編集者もいないからこそ、自分が出したいものをなんでも出品できる。それこそがこのイベントがここまで巨大化した最大の理由。しかしあまりの暑さと人出で、もうフラフラだ。疲れ果てた人々が座り込んで頭をうなだれているが、場内には「座り込み禁止」の張り紙。ここでは休むことすら許されない。
6月のインド旅行以来金欠の私は、あまり同人誌を買うつもりはなく、目当ては明後日、3日目の、評論・雑学的な本である。
男たちが肩からかけているのは、毎年近隣住民から苦情が出るという、悪名高き企業ブースのアニメキャラクター紙袋。
「絶対にバッグにしまわせない」とばかり、どんどんこの紙袋は巨大化しているのではないか。しかし、企業ブースの人気コンテンツのセット商品は1万円とかするし、同人誌でさえ薄くても1000円近くもする。オタクの購買力はすごい。
この炎天下、外のコスプレ広場では、女の子たちがカメラマンたちのリクエストに全力で応えている。特に、何のキャラクターか分からぬが、ビキニの2人組女の子の前など、30人以上は素人カメラマンが群がっていて、押し合いへし合い、いまにも倒れ込みそうだ。いくら女の子が後ろへ下がるように身振りでお願いしても、人が詰まりすぎで下がることもできず、人の波がワタワタ、ワタワタ。世にも奇怪な光景が繰り広げられていた。
◇
懲りずに3日目の8月14日にも出かけた。1日目は新橋からゆりかもめで行ったが、この日は大崎からJRりんかい線。大崎駅では、「チャージしてからコミケに行こう!」と、アニメ絵のJRポスターが。さらに国際展示場駅では、「12日から14日まで、大規模イベントのため臨時ダイヤで運行しています」の張り紙。
JRにも厳戒態勢をとらせるイベント。それがコミケ。さらに放送中のアニメのキャラが「コミケがんばってください」と応援してくれるポスターが出迎えてくれて、駅からすでにコミケ一色である。
この日はビックサイト正面から、長蛇の列に並ばされる。館内は1日目よりさらに人の密度が高い。のちの発表によると、1日目15万人、2日目17万人、3日目は21万人だったらしい。合計入場者数はなんと53万人。とにかくその暑さたるや想像を絶する。
金もないのに、いろいろ回っているとつい買いたくなるので、事前に電話帳のようなコミケカタログでしっかりチェックした数カ所のサークルに行って、1冊ずつ買う。書いた人と直接言葉を交わして、本を買えるのがコミケの魅力。目の前に書いた人がいるというのは、魔法の力があり、もしこの日たくさん金を持っていたら、もっと買ってしまっていただろう。文章系のサークルのエリアから、エロ系の同人誌が売られているエリアに来ると、より人口密度が高くなり、気のせいか温度も1、2度上昇したような。とても耐えられん!
このままいるとぶっ倒れそうだったので、早めに退散した。場内では8歳の男の子が迷子になって保護しているとアナウンスがあったが、こんなところに8歳の子供を連れてくるとは、あまりに過酷ではないか……。可哀想に。
コミケには企業もたくさん参入しているが、基本にあるのはアマチュア精神。それがここまで巨大になるのだから、そのエネルギーたるやすさまじい。お盆のコミックマーケットこそ、日本で、いや世界で一番暑い夏の祭典なのだ!?