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自転車編 第1回「ママチャリ暴走族」

 10月になった。3ヶ月ぶりに自転車で河川敷の自転車道を走った。軟弱サイクリストなので猛暑の夏場を敬遠していたからだ。思いのほか風は肌に冷たくて「長袖を着てくればよかった」と早くも弱音を吐く始末である。

 ことの発端は昨年の定期健康診断。これまでにも何度かあったのだけれど、結果がよくなかった。まあ、ひとことでいえば生活習慣病。若いころのような暴飲暴食はつつしんでいるものの、職業がら不規則な生活と運動不足がなかなか改善できない。でも元気で働くために、せめて運動くらいしなきゃならんのだ。

 そこで今回は自転車である。いつごろからだろう。ここ数年ブームになっている自転車。とくにロードバイクに代表されるスポーツバイクの増加は目をみはるほどじゃないか。でもブームに乗っかって、最新のロードバイクを買ってウエアとかそろえて……、なんてやってたらお金がかかってしょうがない。というより金がない。

 目的は運動すること! ならば 「負荷がかかるほうが効果があるはず」 と、負け惜しみのような理由づけをして、あまり乗っていなかった古い“ママチャリ”を引っぱり出して乗ることにした。

 まいにち、出勤前に自宅から近い河川敷の自転車道を1時間ほどママチャリで走る。自転車道は信号もなくスイスイ走れて気持ちいい。ウォーキングとちがってグングン距離がかせげるのも楽しい。時間がゆるせば2時間、3時間とより遠くへと走りにいった。

 しだいに脚力がついてくると、最新のロードバイクで颯爽と駆けるサイクリストたちが、力を抜いて走っていようものなら追走して追い抜いてしまうほどになってきた。

 そしてママチャリで疾走しているうちに、はたと気がついた。軽やかに走るロードバイクにはこころよく道をゆずる歩行者たちが、同じようなスピードで迫るママチャリには、恐怖と非難のまなざしで道をあけるのである。

 走ることと止まること以外のパーツを省いて軽量化したロードバイクにくらべて、ママチャリは前カゴや荷台、泥よけやチェーンカバーなど便利ではあるが重たいパーツがいくつもついている。

 これがスピードを上げるとわずかな路面の荒れでも “ガチャガチャ” と振動によって、けたたましい音を発するのだ。そのせいで、スピードを上げても軽快に走れるロードバイクとはくらべものにならないほどママチャリでの疾走ははたから見れば暴走と目に映るようだ。

 また、風の強い日には空気抵抗が大きくて、ちっとも前に進まなくなるので本当に閉口する。

 乗りはじめてわずか1ヶ月で体重が10kgほど落ちた。トレーニングとしてはママチャリの方が負荷が大きく効果は絶大なはずだが、やはり“楽しくない”と思うようになってしまった。やっぱりスポーツバイクが欲しい!

 ママチャリでの遠出は、いつのまにか1日で100kmに迫ろうとしていた。こんなに遠くまで走れるなら、片道40km足らずの通勤の足にもなるじゃないの。だったら、こわれる寸前のママチャリよりだんぜんスポーツバイクだ!

 というわけで「ブームだからじゃないんだよ」と言い訳めいたひとりごとをつぶやきながら、カタログを眺める日々がはじまった。
(つづく)

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About 樋口琢生 (29 Articles)
東京生まれ。1989年より早稲田編集企画室ルポ班に在籍。週刊誌記者、ガイドブック編集、単行本制作などに携わる。登山、キャンプ、カヌー、自転車などアウトドア全般が趣味。