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「マッサンは品質至上主義の職人気質」

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 NHK朝ドラ『マッサン』の影響でウイスキーが人気だ。『あまちゃん』以降、朝ドラは視聴率20%以上が当然との流れができたがために『マッサン』は18%台、19%台でも「苦戦」呼ばわりされた(その後20%を超えた)。が、腐っても朝ドラ。もともと、サントリーが仕掛けたハイボールのブームでウイスキー人気の下地はできていたが、さらに拡大している。飲み屋ではウイスキーが売れ、出版社も便乗。書店ではウイスキー関連の入門書やムック本が並ぶ。アベノミクスなんかより全然、経済効果がある。

12月24日 寒っ

「マッサンは品質至上主義の職人気質」(バーテンダー)

『マッサン』は、本場スコットランドで蒸留技術などを学び、本格的ウイスキーを日本で作ったニッカウヰスキー創業者・竹鶴政隆と妻・リタの半生を描いたドラマだから、当然、ニッカのウイスキーが最注目されている。バーでは、今まで見向きもされなかった『竹鶴』や『余市』などニッカのウイスキーを「試しに」とはじめてオーダーする20、30代の客が増えている。「『竹鶴25年』が売り切れで、入荷待ち。こんなのはじめて」と驚くバーテンダーもいた。

 だが、その一方で「マッサン効果なんて全然ないよ。ニッカのウイスキーは相変わらずバーカウンターの隅にひっそりと置かれている」と言うバーテンダーもいるのは、ニッカがそれほど地味だという証。

 実際、ウイスキーの国内シェアはトップのサントリーが6割で、ニッカは2位(約2割)の状況が長く続いている。その差は営業よりも味を優先したマッサンのこだわりにも理由があった。

 聖夜に訪れたバーで、この道40年の職人肌の老バーテンダーがこう話した。

「サントリーの創業者・鳥居信次郎さんは大阪の商家生まれで根っからの営業上手。ニッカのマッサンは品質至上主義の職人気質。ニッカは、スコットランドと気候が近いからと、当時、交通も不便なド田舎の余市(北海道)に蒸留所を作ったのに対し、サントリーは、北海道なんて遠いところで作ったら非効率的だと大阪のはずれに『山崎蒸留所』を作った。 サントリーの社員もニッカの社員もうちに飲みに来るが、カラーがまったく違う。サントリーの社員は、『うちのお酒を置いてください』と必ず営業をかけるが、ニッカの社員は、自社製品にとても誇りを持っていてよさを伝えるが、営業は絶対しない。両者の創業者の理念が社風として今でも受け継がれているんだろう」

 このバーに来たニッカの社員は営業担当でもないし、たまたまオフで訪れただけ。でも、2社の社風はだいたいそんな感じなんだろう。このあたりの違いはドラマでも描かれるはずだ。マッサン美化的に。

 確かにニッカは職人を大切にする。ニッカ本社(東京・青山)の地下1階にある直営店『ニッカブレンダーズ・バー』には、通好みのレアなニッカのウイスキーボトルが並ぶ、ニッカの”顔”だ。

 この店では各ブレンダーの顔が写真付きで紹介してあった。ブレンダーとは、自分の舌をたよりに、熟成樽ごとに味の異なるウイスキーを調合して同じ味のボトルにする、ウイスキー作りを陰で支える専門職だ。他店のバーテンダーは酒の解説をするのに対して、ここのバーテンダーは、それだけに留まらず、ブレンダーの具体的な名前をあげて、「○○さんはすごい」と敬意の念を表していた。メーカー直営店らしく、酒造りへの情熱が伝わる。だけどニッカのそんな伝統は薄れていきそうだ。

『時事ドットコム』2014年9月29日付)はこう報じた。《ニッカは、創業者の竹鶴政孝がNHKの連続ドラマの題材となったことも追い風に営業活動を強化。店頭販売などにアサヒグループの社員延べ7000人を年内に投入する予定だ》

 同記事によると、今年の売り上げ2倍増が目標だという。その戦略は客の見えるところで進んでいる。どこかの居酒屋でも『マッサン』のイラストと共にニッカのハイボールを大きく売り出していた。

 より多くの人がニッカのウイスキーを楽しむのはいいことだ。だけど、大量生産すれば今までのような品質保持は難しくなるだろう。「金より味」を追求してきたマッサンの理念が、奇しくも、降ってわいた自身のブームのせいで、崩れようとしている。天国のマッサンも、おとそを飲んでのんびり正月を過ごすわけにはいかなさそうだ。

 

追伸

 聖夜、仕事の打ち合わせのために、仕事関係者と2軒のバーを訪れた。上の老バーテンダーの話は2軒目のバー。1軒目では……新しい客が来るたびに「メリー・クリトリス!」、「メリー・クリトリス!」と、使い古された聖夜限定のギャグを連呼していたのは、マッサンではなくただのオッサンだった。

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ソンビチャイ
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30代の駆け出し週刊誌記者。