移民都市・深圳をゆく その2「香港と大陸側を結ぶ出入口──口岸(前編)」
深圳と香港は川をはさんで陸地でつながっているものの、その間にある“国境”を自由に行き来することはできないということを前回書いた。そこで今回と次回の2回に分けて、通り抜けるにはパスポートや通行証が必要な、深圳と香港の間にある出入口「口岸」について取り上げていこうと思う。
「口岸」の中国語の読み方はカタカナで書くと「コウアン」。意味は、辞書をひくと「港」「(空港や港などに)税関が設置した検問所」とある。しかし実際のところは、出入国を管理する「イミグレーション」といったほうが分かりやすいだろう。要は、向こう側に抜けるために通る関所みたいなところだ。
余談になるが、中国と香港の関係を述べる際、両者を「中国」と「香港」と書き分けると、香港は中国の一部なので、中国では政治的に正しくない。そのため、現地では中国側のことを指す際に「大陸」または「内地」と呼ぶことが多い。香港のほうはそのまま香港である。
そして深圳の立ち位置としては、大陸側と香港を結ぶ玄関口ということで特殊な存在と見るフシがあり、本来なら深圳も「内地(または大陸)」に含まれるはずだが、深圳の人たちはそれを良しとせず、「香港」「深圳」「内地」と3種類に区別する人もいる。
話を元に戻すと、この「口岸」、深圳と香港の間には全部で8つある。以下の地図に描いた、赤い●がそれだ。深圳から香港に行くには、このどれかを通り抜けていくことになる。
香港と陸地で接している部分に5つ、西側の海沿いに3つあるが、陸地部分で2つの●が並んでいるところが2か所ある。これは、一つが鉄道と地下鉄で結ばれている口岸で、もう一つは車両用の口岸となっている。一番東側にある口岸は車両用だ。
そして西側の海沿いにある3つのうち、海を渡って道路が結ばれているところは車両用、そして残り2つはフェリーで香港に行き来する際に通る口岸となっている。ちなみに一番西にある口岸は、すぐ脇の深圳空港と接続している。
口岸を抜けて向かう先は
これら8つの口岸のうち、もっとも通行人数が多いメインエントランスともいえるのが、地図の矢印で示した羅湖口岸。下の写真は、深圳側から見た羅湖口岸の風景である。
写真のとおり、深圳から見える香港は山ばかり。ケバケバしい電飾の看板が並ぶ、香港らしい繁華街は山並みのずっと向こう側。深圳から香港の中心部へは、羅湖口岸を抜け、香港側にある電車に乗っていくことになる。所要時間約40分。
香港は基本的に関税がないため、ブランド物や電気製品、化粧品などは大陸よりも安い。そのため、週末には深圳側から多くの買い物客がここを抜けて香港に買い物に行く。香港のアップルストアでiPhoneやiPadをまとめて10個とか豪快に買っていくのも、高級ブランド店であれこれ品定めしているのも、ほとんどが中国人だ。
逆に香港側からは、週末のナイトライフを深圳で過ごそうという香港人男性を多く見かける(夜遊びは深圳のほうが安い)。そして春節(旧正月)の旅行シーズンともなると、1日にここを30万人以上が通り抜けることになる。
口岸の建物の中に入ると、まずは中国側の“出境”手続き。ここで中国人は通行証、外国人はパスポートを提出して、判子を押してもらって通過。そのまま真っすぐ進み、建物を出ることなく深圳と香港の間を流れる川を越え、香港側へ。香港側で同じように“入境”手続きをして香港側に入ると、その先に電車の駅がある。ここでは駅の外に出ることはできず、電車に乗って香港の中心部へと向かうことになる。口岸通り抜けの所要時間は、人が多くない時でも15〜20分くらいかかる。
この羅湖口岸は、他の口岸に比べると外国人にとっては便利で、中国側にも香港側にもイミグレーションに外国人専用の窓口がある。つまり、ものすごい数の中国人たちと同じ列に並ばなくても済み、これだけでもかなりストレスが減る。他の口岸はその区別がない。
次回は、その他の口岸について取り上げていく。