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障がい者就労が地元を元気にする。アイエスエフネットグループ沼津の事例

多彩な料理が並ぶ自然食ビュッフェレストラン「たくみ農園」

 静岡県沼津。新幹線こだまを三島駅で下車し、JR東海道本線に乗り換えてひと駅めで降りると、昔ながらの商店が軒を連ねる町並みが広がる。今回、私はこの街で障がい者就労を軸に多角的事業を展開するアイエスエフネットグループの雇用創造オフィスビルを見学させていただいた。

 アイエスエフネットグループは、全体で3000名近くの社員がおり、全国19カ所、海外8カ国に拠点を置くIT企業。このアイエスエフネットグループの最大の特徴は、障がい者をはじめとした、さまざまな就労困難者の雇用をグループの一大方針として掲げているところにある。

 2000年に同グループの母体であるアイエスエフネットを創業した渡邉幸義代表は、創業当時、社員を募集してもなかなか人が来てくれないことに頭を抱えていた。そこで、履歴書の過去を見ずに、未経験の人を採用していったところ、結果としてそのなかにメンタル不全を抱えた人や、ひきこもりだった人が多く含まれていて、その人たちが熱心な仕事ぶりを見せたことから、さまざまな就労困難者と呼ばれる人たちを雇用していくことになった。

 現在、同グループでは、特例子会社のアイエスエフネットハーモニーや就労移行支援・就労継続支援A型のアイエスエフネットライフといった各グループ企業や渡邉代表が理事長を務めるNPO法人Future Dream Achievement(FDA)などを中心に、発達障がいや知的障がい、生活保護受給者など、さまざまな人たちを雇用。一般の企業ではなかなか雇用されることが難しい人たちに、活躍の場を与えている。たとえば、コミュニケーションが苦手な発達障がいの人が、高い演算能力を持っていて、帳票作成という、パソコンでの専門的な仕事で力を発揮することがあるというように、「障がいのある方は、しばしば特定の事柄に秀でた能力を持っている」というのが渡邉代表の経験から学んだ事実。その可能性の大きさを表すように、アイエスエフネットグループでは、障がい者のことを障がい者と呼ばず、未来の夢をかなえる人、という思いを込めて、「FDM」(フューチャー・ドリーム・メンバー)と呼んでいる。

有機的に連携する「雇用創造オフィスビル」

 

 そんなアイエスエフネットの、到達点のひとつが、渡邉代表の地元でもある沼津にある、6階建てのビルだ。このビルは、1階をのぞくすべてのフロアが、アイエスエフネットグループの系列企業になっていて、アイエスエフネットをはじめとするグループ企業のオフィス以外に、フィットネスクラブ、高齢者向けのデイサービス、放課後等デイサービス、多目的シェアスペース、そして2階の自然食ビュッフェレストラン「たくみ農園」などが一堂に会している。

 そして、特筆すべきはこれらの各フロアが有機的に連携していることだろう。たとえば、高齢者向けのデイサービスでは、上のオフィスフロアで働く「フューチャー・ドリーム・メンバー」が、高齢者にパソコンを教えたりすることもある。また、「アイエスエフネットライフ」では、親会社の「アイエスエフネット」から切り出されたさまざまな仕事を行うほかにも、同じビルのフィットネスクラブからの業務依頼を受け、データ集計に関する仕事を取り扱ったり、「たくみ農園」の厨房スタッフとして業務に従事しているメンバーもいる。さらに、自然食がビュッフェスタイルで食べ放題の、「たくみ農園」は、ランチタイムにおいて、一般は990円だが、60歳以上の高齢者は600円という料金設定にすることで、家に閉じこもりがちな高齢者が出かけ、集まる地域の社交場ともなっている。沼津のアイエスエフネットグループの雇用創造オフィスビルは、障がい者雇用の一大拠点であると同時に、若者が少なくなりがちな地方の街を再活性化させるプラットフォームとして機能しているのだ。

 障がい者の雇用を促進することが、街の再活性化にもつながる、というこのモデルは、日本中のさまざまな街でも応用されることが期待される。現に、このビルには、日本各地の自治体などからも続々と視察が訪れている。人が働ける場所、集まれる場所を増やしていく、というこの仕組みは、これからもさらに注目されていくことだろう。

里中高志
About 里中高志 (9 Articles)
1977年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒。大正大学大学院宗教学専攻修了。精神保健福祉士。フリージャーナリスト・精神保健福祉ジャーナリストとして、「サイゾー」「新潮45」などで執筆。メンタルヘルスと宗教を得意分野とする。著書に『精神障害者枠で働く』(中央法規出版)がある。