vol.4「彼岸では終わらない抗議のあつさ」
あまりにも暑い日が続くから、なかばその腹いせに『夏だけ連載・とってもあついので』としてはじめた連載だったのだが、たしかに猛暑日の連続記録は塗り替えられたものの結局は冷夏なのだという。実際それ以降、暑さに苦しめられた記憶はなく、9月に入る前に秋の気配すら感じたものだ。本来なら企画倒れで連載終了とするところだが、『夏から連載・とってもあついので』と改題して「あつい」ものをテーマに継続することにした。
この夏の「あつい」出来事のひとつにデモがある。いうまでもなく安倍政権が安保関連法案をゴリ押しで成立させようとする事に、黙っていられなくなった学生たちが起こした抗議行動だが、今や国会前の道路を埋め尽くすほど参加者が増えている。
かつての安保闘争や大学紛争などを小学生だった筆者はけっこう間近で見て記憶しているが、当時、運動しているのもデモに参加していたのも、思想的に組織された大学生や労働組合員がほとんどの反体制運動だったという印象がある。
しかし今回のデモを見ると、東日本大震災にはじまる原発反対の抗議デモに参加していた学生たちが5月に立ち上げたグループ「SEALDs」が中心になって、拡大していった。それまでなんの組織にも属していなかった学生はもちろん、会社帰りのサラリーマンや中高年の夫婦、若いカップル、女子高生、子どもの手を引いた母親、車いすのお婆さんまでも……。文字通り老若男女が入り混じり足を運んでいることに驚かされる。
もちろん職場や何らかの団体で組織されて来ている人もいる。しかし、かなりの参加者が「動員された」のではなく「自分の意志で見に来た」と、その理由をあつく語るのだ。
あるサラリーマンは、愛知県から貴重な休日を費やして一人で来たという。「ネットで連日の様子を見ていたが、一度は実際に足を運んで意思表示をしておこうと思っていた」といい「こんなにいろんな人が参加しているとは思わなかった」と率直な感想を語った。
また、ある60代の女性は「近所の八百屋のおばさんとかも、このまま安倍でいったら日本がどうなるかわからないって不安を口にしているんです。それくらい誰もが気にしているんだと思います。私もじっとして居られなくなったんです」と参加の動機はシンプルだ。足を運んだデモで偶然友人と出会ったという。
その友人である60代の女性も「安倍政権に対して原発問題以降ずっとモヤモヤして納得いかなかった。6月の憲法審査会で3人の憲法学者全員が違憲だと言ったことで、私たちの気持ちが後押しされた気がしました。憲法9条で日本が戦争を放棄したということは小学生でも知っています。日本人なら誰でも染み付いていることだから、みんな関心があり家族やご夫婦で来ている方も多いんです。私も抗議活動のお手伝いをしたいと思って何度も来ているうちに偶然お友達に会い、みんな同じ不安を持っているんだとわかりました」とあつい。
このように半世紀前の安保闘争以来の盛り上がりを見せる一般国民の抗議デモは、選挙権が18歳以上にあらためられる今後の日本の民主主義を変えていく力になるかもしれない。とはいえ国会内の法案審議は野党の激しい阻止行動をもってしても、いずれ成立へと進められるのだろう。それでもデモに参加する意味はどこにあるのか。
ツイッターやFacebookを見て会社の帰りに来てみたという40代の男性は言う。「これをやったからどうにかなるとは思っていませんけど、こういう行動は必要だなという気はしますね。法案が何の反対運動も無く通ってしまうのと、反対があった上で通るのとでは、その結果に対する重みが違うと思います。僕自身は、もし改憲になっても国民がちゃんと投票した結果ならばかまわないと思っています。しかし手続きを無視して正しいからやるんだというのは民主主義ではない気がするんで、手続きの整備を気にしない安倍政権は、目的の正しさということとは関係なく、ちょっと受け入れられないなと思います」
そうなのだ。デモに参加して反対の声を上げている人々は、法案の詳細には様々な意見があることを理解している。ただそれらの検証が不十分で国民が納得できていない段階で数の力で成立させようとしている姿勢に反対しているのだ。
法案成立目前のいま、デモで叫ばれているのは、これまでの「戦争法案絶対反対!」「安倍はやめろ!」に加えて「賛成議員は落選!」という成立以後を想定したスローガンに移行しつつあった。
今国会の会期は残りわずか。与党はこの連休前に成立させる姿勢をくずさない。このあつい攻防はいかなる終局をむかえるのだろうか。「暑さ寒さも彼岸まで」のことわざ通りでは終わりそうもない。