新ツール「Fire TV Stick」で蘇った25年前のフランス映画の思い出
前々回の記事「映画のネット配信全盛時代に、レンタルDVDを借りるのは守旧派なのか?」で、動画配信サービスのHuluは便利だが、パソコン画面だと鑑賞しにくいのが難点、というようなことを書いた。それからあまり時間も経っていないのだが、その概念を吹き飛ばすツールが発売されてしまった。Amazon のFire TV Stickである。
テレビのHDMI端子にはめてネットに接続するだけで、最近動画配信を開始したアマゾンプライムや、すでに会員登録しているならHuluなどのサービスもテレビ画面で見られるこの商品。大々的に告知していたので目につき、早速購入した。
Amazonアカウントは購入した時点で登録されており、Huluのアカウント設定も画面に現れるパスワードを普段使っているパソコンから入力するだけで簡単。すぐにテレビ画面から数百以上の映画を選べる状態になった。これは革命的だ。難点は音声認識機能がない方の安いリモコンを購入したところ、Huluの作品検索がうまくできず(あかさたな…だけが表示されてその他の文字への行き方がよく分からない)目当ての作品を見つけにくいことだが、パソコンのほうで検索して一瞬表示すればすぐテレビのメニュー画面のトップにも表示されるので一手間かければ大丈夫か。これだけの機能を手にして4980円ならすぐに減価償却してしまうだろう。
もっとも、たくさん選択肢があるとかえって選ぶのに困る現象が起こったり、逆にたくさんありすぎて生活が引きこもり化するのも怖い。実際にはこんなに映画があっても忙しくてあんまり見られないのが現状である。本を読む時間も欲しいし。
そんなわけであるが、使い心地を試したくて第一回の鑑賞は「ポンヌフの恋人」にした。Huluのラインナップに入っているのを見て気になっていたのである。これは25年ほど前に映画館で鑑賞した思い出のフランス映画である。監督のレオス・カラックスは当時映画ファンの注目を集めていたスター的な鬼才で、このポンヌフの恋人はセーヌ川にかかるポンヌフ橋のセットを作ったりと費用と時間がかかり過ぎ、製作途中から話題になっていたのだ。とはいっても、私の周りでは誰も話題にしてはいない。映画雑誌等の話である。
中高生のころの私はルキノ・ヴィスコンティとかフェデリコ・フェリーニとかその類いのヨーロッパ映画が好きな映画ファンで、周囲の同級生とは隔絶した趣味に走っていた。学校帰りに日比谷シャンテシネや銀座並木座に映画を見に行ったりもした。日比谷シャンテシネはTOHOシネマズシャンテと名を変え、名画座の並木座はとうになくなった。TOHOシネマズシャンテの方も全然行っていないが、今度行ってみたいものである。
そんなわけで25年ぶりに鑑賞した「ポンヌフの恋人」。覚えている内容と言えば、主人公が市場から魚を盗んで生のまま食べてヒロインと「日本人みたいだ」と言っているシーンくらいだったが、(日本人だってそんなもん食わねーよ! と思ったので覚えていた)なかなかに胸打たれた。ホームレス状態の男女の破滅的な恋愛ストーリーなのだが、だからこそ美しく、これを見たとき非常に感激したのを思い出した。こんな映画はハリウッドは到底作らないだろう。「人生」そのものが描かれた映画はすっかり減ってしまった気がする。私が見ていないだけかもしれないが。それにしても、中高生のころの私はいまよりよほど映画の趣味が高尚だった。
この映画を再見して感動できたのもテレビ画面で見たからであろう。パソコン画面ではこうはいかない。だが、やはり映画は映画館で見るのが一番である。最近名画座が気になっていて、池袋の新文芸坐で見た映画体験がよかったので、今度は飯田橋ギンレイに行ってみたい。暇があればであるが。