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魔都上海を巡る その4「悠久の歴史を持つ酒・紹興酒」

専門店の店頭に並ぶ紹興酒の甕。店にもよるが、店頭に並べて札がかけてある甕は単なる飾り。中は空っぽだ。中身の入った甕は店内にある

 今回は日本の中華レストランでもよく飲まれている中国の紹興酒についてご紹介しよう。その前に、紹興酒についての誤解を1つ解いておきたい。日本では中華レストランに行くとたいてい紹興酒があるため、紹興酒は中国を代表する酒で、中国のどこでも飲まれていると思われがちだ。しかし、決してそんなことはない。紹興酒は上海周辺、いわゆる中国華東エリアではよく飲まれているが、それ以外の地域ではあまり飲まれていない。

 筆者は現在は上海在住だが、それ以前は中国南部にある広東省の深圳と広州、中部にある四川省の成都に合計7年住んでいた。その7年間で紹興酒を飲んだのはたったの3回。1回めは深圳で上海蟹を食べた時に。2回めは広州の上海料理レストランで。3回めは上海土産としてもらった紹興酒。いずれも上海がらみで、それ以外で飲んだことがまったくない。もちろん現地のスーパーや酒屋でも売られてはいるのだが、種類は非常に少ない。

 というわけで、上海以外の中国の都市に行った際、レストランに行って「紹興酒を飲みたい」と言っても、置いていない店が多いのでご注意を。

 さて、ここからが本題。

 紹興酒というのは、紹興という街で作られているからその名がついている。中国では一般的に「黄酒」とも呼ばれている。紹興は上海から南西に直線距離にして約150キロのところにあり、文豪・魯迅(ろじん)の故郷としても知られている水郷の街だ。紹興では春秋時代末期(紀元前5世紀ごろ)には酒が作られていたとされており、紹興酒は2500年以上ものあいだ、かの地の飲兵衛たちを大いに楽しませてきたわけだ。

 紹興酒はもち米を主原料とした醸造酒で、アルコール度数は14度程度と、ワインとほぼ同じ。上海では一般的なお酒で、スーパーにはさまざまなメーカーの瓶が並び、商店街の専売店には30種類以上の紹興酒が甕(かめ)で並び、量り売りで売られている。銘柄によって価格は異なるが、安いもので500ミリリットル100円以下、高いものでも300円ていど(1元=約18円。約5.5元で100円)。庶民の懐にも優しい。

 また、スーパーでメーカーものを買うより、専売店で量り売りを買ったほうが安い。

「あんまり甘くないのが欲しいんだけど」
「この間は何を買ったんだっけ?」
「女児紅(紹興酒の銘柄の一つ)。ちょっと甘かったよ」
「私は甘いほうが好きだけどね。じゃあこれにしなさい。これはそんなに甘くないわよ」

などと店のおばちゃんと話しながら買うのもまた楽しい。

 飲み方としては、温めて飲むのが一般的。あと、中国によくある甘酸っぱい梅干しを入れる人も。日本のように角砂糖を入れるのは見たことがないが、ネットで調べるかぎりは中国でもそういう飲み方をする人もいるようだ。

 そして、紹興酒に合う食べ物といえば、やっぱり地元の料理。上海料理もそうだが、華東エリアの料理は黒酢や砂糖、醤油を使った濃厚で甘めの味付けのものが多く、これが紹興酒によく合う。

見てくれはよくないが、自宅では電子レンジでチンして温めるのが一番簡単。ツマミは茹でた枝豆を紹興酒ベースの汁に漬けたものと、お麩を甘辛く煮付けたもの。どちらも上海料理の冷菜の定番

見てくれはよくないが、自宅では電子レンジでチンして温めるのが一番簡単。ツマミは茹でた枝豆を紹興酒ベースの汁に漬けたものと、お麩を甘辛く煮付けたもの。どちらも上海料理の冷菜の定番。

 また、秋が旬の上海蟹を食べる時にはマストの飲み物でもある。東洋医学で上海蟹は食べると体内を冷やす作用があるとされており、それを防ぐために、身体を暖める作用がある生姜を使った料理を一緒に食べたり、紹興酒を飲んだりする必要があるのだ。

上海蟹は日本での呼び方で、中国では「大閘蟹(ダーヂャーシエ)」と呼ばれている。手脚を縛って生きたまま蒸し上げるのが一般的な食べ方。旧暦9月は雌が美味しく、同10月は雄が美味しいとされている

上海蟹は日本での呼び方で、中国では「大閘蟹(ダーヂャーシエ)」と呼ばれている。手脚を縛って生きたまま蒸し上げるのが一般的な食べ方。旧暦9月は雌が美味しく、同10月は雄が美味しいとされている。

 次回は、紹興酒の専売店のおばちゃんとの会話にも少し出てきた「女児紅」という名前の紹興酒について。

About 佐久間賢三 (40 Articles)
週刊誌や月刊誌の仕事をした後、中国で日本語フリーペーパーの編集者に。上海、広州、深圳、成都を転々とし、9年5か月にもおよぶ中国生活を経て帰国。早稲田企画に出戻る。以来、貧乏ヒマなしの自転車操業的ライター生活を送っている。