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自転車編 第4回「かぜに負けるな!」

 医者から運動しなさいと注意され、乗りはじめた自転車。去年の夏からはや1年。ことしも季節は秋から冬へとかわりつつある。ポンコツのママチャリで100kmもの距離を走っていると、もうトレーニングというより荒行(あらぎょう)のようで、人に話すと「バカじゃないの?」とか、「自転車は好きだけどママチャリでそんな長距離走りたくもない」というのが良識あるおとなの反応。

自転車にとって逆風とは

 たしかにママチャリで走っていると、つらいことがいくつかある。暑さ寒さはあたりまえだが、なかでもつらいのは長いのぼり坂と向かい風。どちらもママチャリという自転車の欠点がもろに足かせとなる。

 欠点その1。ママチャリとスポーツバイクでは決定的な重量のちがいがある。

 スポーツバイクは、いまや10kg以下があたりまえ。とにかく軽量化がすすんでいる。フレームの素材もさることながら、パーツの1つひとつが高価であればあるほど軽い。なおかつ無駄なパーツはつけないのが基本。それにひきかえママチャリは、安くて丈夫な鉄フレームが主流なばかりか、便利さ優先だから、いろんなパーツが惜しげもなく取り付けられていて、重いのなんの……、まず15kgはくだらない。

 欠点その2。ママチャリとスポーツバイクの大きなちがいは、乗車姿勢にある。

 スポーツバイクが高いサドルと低いハンドルで前傾姿勢であるのにくらべて、ママチャリの乗車姿勢は、両足が地面にベッタリつくほど低いサドルにどっかりと尻をのせ、高めのハンドルで思いっきり顔、胸、腹の上半身全体で風を受けてしまう直立?姿勢という悲惨さ。空力特性の差が歴然なのだ。

 急なのぼり坂では重いほうが不利なのは言わずもがなだろう。だけど急坂はたいてい長くは続かない。ギアを軽いほうへシフトして、ジグザグに走るくらいしか手だてはないが、坂が終われば一気につらさから解放される。やはりいちばんの強敵は風である。
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 季節が冬になると風の吹く日が多くなる。自転車で出かけるとき、行かなければならない目的地が風上に位置する場合は悲しくなる。

 樹木の葉がそよぐくらいの風は風力3だそうだ。風速にしておよそ3.4m/sといわれている。時速になおすと12km/hくらい。止まっていてもそのスピードで走っているのと同じ空気抵抗を受けることになる。だが前傾姿勢を強めに意識すれば、まだたいした抵抗ではない。

 もう少し風が強く吹き、樹木の枝が揺れるほどになると風力4から5くらい。かりに風速7m/sとしよう。時速にすると25km/hということになり、これはもうママチャリの全力疾走のスピードだ。これでは、前に進むのが困難になり、必死で漕いでも時速10km/hも出せなかったりする。木枯らしの道を行こうとする自転車が、歩く人とほとんど速度がかわらなかったりするのが、そういう風の日だ。

 もちろん、そういう風を追い風として背中に受ければ、力を入れずにスイスイ走れてラクチンなのだが、その道をもどらなければならないと思うと乗る気がうせる。

がんばりすぎない勇気を持つ

 トレーニングという意味では、「負荷がかかるほうが効果的なんだからいいじゃないか」と思うかもしれないが、それは大きなまちがいだ。ふつうのトレーニングならキツくなったら、やめればいいが自転車は目的地につかないと(ふつうはスタート地点にもどることが多いが)終わりにすることもできない。だから、負荷なんてかけないほうがいいんだ。

 だから、私は風の強い日、または強くなると天気予報が告げている日はためらうことなく乗るのは諦める。それでいいのだ。もちろん、天気予報はこまかくチェックする。風は、午前と午後で方位が逆転することが多いからだ。運がよければ、行きも帰りも追い風で「超ラッキー!」なんてこともある。トレーニングだといっても、たまにはラクしてたのしく走りたい。まちがっても天気予報を読みあやまって逆風の中に漕ぎ出さないことだ。
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 気づいていない人が多いのではないかと思うので裏ワザをひとつ。

 風の日もそうだが、スピードをあげたいときや疲れてきたときに、がんばって力強くペダルを踏む人がほとんどだろう。できる人は「立ちこぎ」なんていうテクニックも使うに違いない。

 ペダルを強く踏み込むとき、反対側の足はどうしてますか? 踏み込むことにばかり必死になって、ただペダルの上に足を乗せてはいないだろうか? あるいは強い力で踏むために体を安定させようと無意識に踏ん張っちゃってるのでは?

 じつはこれ、せっかく力いっぱい踏み込んでるつもりでも、その力を殺してしまうことになるのだ。それを実感するために、漕ぎ終わった足をすこしペダルから浮かすつもりでクランクの回転方向に引きあげてみるといい。すると、あら不思議。踏みこんでいるペダルの抵抗がスッとなくなり、信じられないほど軽くなる。たとえ踏ん張ってなくても、足をペダルに乗せているだけで足の重さ(これ結構馬鹿にならない。片足だけでも腿から下は10kgくらいはあるだろう)を持ち上げていることになるからだ。

 お金のある人なら手に入るビンディング・シューズ(ロードレースの選手たちがはいているペダルに固定できる靴)は、漕ぐ力をさらにむだなく使うためのものだ。360°全方位に漕いでいる。しかも両足でずっと。スポーツバイクに乗るようになったら使ってみたいあこがれのアイテムである。
 (つづく)

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About 樋口琢生 (29 Articles)
東京生まれ。1989年より早稲田編集企画室ルポ班に在籍。週刊誌記者、ガイドブック編集、単行本制作などに携わる。登山、キャンプ、カヌー、自転車などアウトドア全般が趣味。