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AKB48「翼はいらない」の現状肯定に読み取る、自民圧勝の時代の空気

 去る7月10日に行なわれた参院選はまたも自民党の圧勝。自民・公明をはじめとする「改憲勢力」が3分の2を超え、憲法改正の発議が可能になったということだが、当然ながら選挙が終わって一週間以上が過ぎても、果たして何かが変わったのか、何かが変わって行くのか、なんだかピンと来ないというか変わらない日常が続いているという気分の人がほとんどではないだろうか。

 安部政権に反対する人たちは、「3分の2を超えたら戦前がやってくる」と危機感を盛り上げていたが、今回の選挙戦で安部首相は一度も「改憲」を口にしなかったということで、これが恐るべき沈黙なのか、サヨク勢力が被害妄想を持ち過ぎなのかいちいち判断がつかないが、冷戦終結後四半世紀にして、右と左の分断はますます加速しているのだけは確かなようだ。

 もっとも、安部首相が「有効求人倍率は1倍を超え、仕事をしたい人の数だけ仕事はある。アベノミクスは成功」と自画自賛していたことについては、格差がますます進み、一度社会の歯車から外れてしまってどうにも這い上がれず、明日への希望も見出せず生活にあえいでいる人のことを考えると、あまりにも能天気に聞こえてしまう。それでも今回これだけ自民が圧勝したのは、「このままでいっか」という現状肯定派が過半数を占めていたということだろうが、そんな今日の日本のムードに怖いほどマッチした、ある最近のヒット曲のことをふと考えてしまうのである。

 その曲とは、AKB48の「翼はいらない」である。この曲は6月1日に発売され、AKB総選挙の投票権が入っていたシングルに収録されていたのであるが、この曲が歌われているのをテレビで見たとき、私は不覚にもちょっと感動してしまった。どういう歌詞かというと、翼があったらどこに飛んで行こうかと考えたものの、翼で飛んで行く場所が思いつかず、大地を踏みしめて歩いて行こうと思う。あげくは空の鳥は翼のない僕らを眺めて翼がないって素晴らしいと羨ましがっているだろうと勝手に想像し、「空を飛ばなくても歩いて行けるから自分が持っているものだけで幸せになれるんだ」というのである。

 この歌が1971年に発売された「翼をください」を意識していることは明白である。そして、「翼をください」が徹底した現状否定ソングであるのに対し、「翼はいらない」はまさにいまの自分のままで生きていこうという現状肯定ソングである。「翼はいらない」のPVは往年の学生運動風の情景が再現されており、若者たちが体制に反抗し、現状を変えることを目指そうとした時代を意識しながら、それを現代に移し替えた時に、「今のままでいい」と変換される。そのことを確信犯的に表現している。時代感覚を汲み取ることに長けた秋元康だけに、この歌詞も今の時代の空気を彼なりに察知したものなのだろう。

 明日が見えなかろうが将来を描けなかろうが、夢中になれるアイドルがいれば、なんとなく現状を肯定して「いまのままでいい」と思えてしまうのかもしれないが、果たしてそれでいいものだろうかと漠然とした不安も感じてしまう。安部首相と秋元康は仲がいいということも伝えられており、秋元康は東京オリンピック組織委員会の理事も務めているだけに、なんとなくイヤーな気分がしてしまうのである。

俵はるぞう
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あちこちの媒体に執筆する謎のフリーライター。このペンネームは本ブログのための仮の姿だという噂も。