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「ズルズル〜」

住所:板橋区常盤台3-10-3/営業:午後6時〜深夜4時(水曜定休) 住所:板橋区常盤台3-10-3/営業:午後6時〜深夜4時(水曜定休)

 メタボを気にしてここ数年、ラーメンを控えていたが無性に食べたくなった。「背脂たっぷりのとんこつしょうゆ味の元祖」と言われる、板橋の有名ラーメン店『下頭橋(げとうばし)ラーメン』へ行ってみた。最寄り駅は、池袋から東武東上線の各駅停車に乗って5駅のときわ台駅。駅名は「ときわ台」だが、住所表記は漢字で「常盤台」。

11月某日 晴れ

「ズルズル〜」(奥菜恵)

 広いお屋敷が並ぶ北口の一帯は、誰が名付けたのか「板橋の田園調布」と称される。高級住宅地だ。この呼び名の認知度は低い。知っている人も「ああ、あの常盤台ね」と小バカにしたように言う。だが暗い夜道を歩いた感想は、田園調布と変わらない。品川ナンバーか練馬ナンバーかくらいの違いだ。それを大きな違いと思う人もいれば、逆の人もいる。こんなことを気にするのは僕みたいな田舎者くらいなのかも。

 少なくとも常盤台は、僕が暮らすエリアより遥かに地価は高いしいいところだということは付け加えておこう。

 静かな夜道を歩くこと10分。『東武ストア』前野町店の向かいの町外れに『下頭橋(げとうばし)ラーメン』はある。深夜0時だというのに、店先には2人組の若い男性がタバコを吸いながら待っていた。せっかく来たのだから待とう。すぐに、会計を終えた客が1人、外へ出て来ると、2人組が、「僕たち並んで食べたいので」「お先にどうぞ」と順番を譲ってくれたので、ほとんど待たずに済んだ。

 店内は8席ほどしかないL字の狭いカウンター席(*注:ラーメン店紹介サイト『ラーメンデータベース』によると、2階には座敷があるそうだ)の客は全員20、30代の男性。そのうちの4人組男性は飲んだ帰りにシメで訪れたようだ。「ラーメンのスープは塩分が多いから飲まないんだよね」と、店主に聞こえるような声で堂々と言う。たとえラーメンがB級グルメだとしても、そんな物言いは失礼じゃないかと、その場のみんなが思ったに違いない。そんな空気を察したのか、連れの男性が、店主のほうをチラリと見て、「でもさ、ここはスープもうまいから飲んじゃうんだよね」と、さりげなくフォローしていた。

 カウンター内には、厨房で調理する店主らしき中年男性と、丼の上げ下げをする超美女スタッフの2人がいる。2人とも愛想がいい。有名店にいがちな、接客よりも自己主張が優先の勘違いガンコオヤジがいないので居心地がいい。それに、ラーメン店には珍しく、使い捨ての紙おしぼりではなく、布のおしぼりが付くのも嬉しい。

 ラーメン(750円)を注文して、本棚にあった『工業哀歌バレーボーイズ』の1巻を20ページもめくらないうちにラーメンが出てきた。丼の縁が背脂でテカテカしていて、手がヌルッとする。布おしぼりの理由がわかった。

 ズルズル。おいしい。見た目どおりこってりだ。かなり濃い。なにか脳天に突き刺さるような錯覚に襲われる。かつて川島なお美は、「私の体はワインでできている」とワイン愛を語っていたが、このときの僕は間違いなく、「私の体は背脂でできている」。田園調布というより板橋の味わいにホッとした。

 ズルズル。なにかの週刊誌で読んだが、女優の奥菜恵は、独身時代、深夜にわざわざ都心からここへタクシーで乗り付けては、麺を完食、ドロドロスープも飲み干していたという。奥菜といえば、『サイバーエージェント』の藤田晋氏との離婚、一般人男性と再婚、押尾学や斉藤工との交際報道など恋多き女らしいが、こってり味を好むとは肉食系のイメージと重なる。背脂でテカった唇で、ジュルジュルとラーメンをすする彼女の姿はフェロモンで溢れていただろう。そんな彼女も今や2児のママ。舞台『夕空はれて~よくかきくうきゃく~』(青山円形劇場)に出演中(12月1日〜12月14日)だ。

 奥菜がここまで来るタクシー代は片道5千円くらいか。往復のタクシー代を入れるとラーメン1杯で推定1万750円。高っ!

 一方、僕は、歩いて帰ったのであった。

About ソンビチャイ (17 Articles)
30代の駆け出し週刊誌記者。